インプラント手術のリスクと評価(2)~局所状態の評価~

アイデンタルクリニックでは、インプラント手術における各種リスクを最小限にするため、下記の3つをルーティンとして行っています。

  1. 全身状態の評価と全身疾患とのインプラント治療に対するリスク
  2. 局所状態の評価
  3. インプラントの画像診断

本ページでは2.局所状態の評価についてご説明します。

2.局所状態の評価

口腔内の状態

残存歯列と欠損部の状態

残存歯(現在、口の中に残っている歯)、歯が欠損した部位の状態(粘膜、及び、骨の状態)残存歯のう蝕の有無、充填物、補綴物の状態、義歯の使用状態、残存歯列の咬合関係(噛み合わせ)、口腔衛生状態、歯周疾患の有無とその程度を術前検査として行う。特に、失活歯(神経を取っている歯)の根尖病巣や歯周病の骨吸収の程度を確認し必要に応じて抜歯、あるいは細菌に感染している病巣を完全に除去する。

口腔粘膜、歯肉の状態

歯肉は、繊維成分の多い硬い角化付着粘膜と繊維成分の少ない非角化可動粘膜に分けられる。歯あるいはインプラント体の周囲は、安定性と清掃しやすさから角化付着粘膜で覆われていたほうがよい。歯が喪失したあとは角化付着が失われることが多いので手術部位がどうなっているのかは確認が必要である。また、上唇小帯、頬小帯があるところは清掃しにくくなっているので、確認する必要がある。場合によっては小帯を切除することもある。

歯周病の評価と歯周病のインプラント治療へのリスク

インプラント治療対象の歯の欠損の原因が歯周病である場合に、残存している歯も歯周病細菌に感染している可能性が高い。歯周病細菌は、インプラント体に感染する可能性がある。歯周病はインプラント治療の予後に影響を与えると考えられる。まずは、歯周病の状態を検査する。検査は歯周ポケットの深さ、出血の有無、歯の動揺、プラーク(磨き残し)の有無などである。歯周基本治療(スケーリング、歯磨き指導、咬み合せの調整など)を行い、口腔衛生状態(口の中の状態)を改善する。歯周基本治療を行ったにかかわらず口腔衛生状態の改善が見られない場合は細菌感染のリスクが大きいのでインプラント治療は避ける。

顎関節・咬合の評価

歯列の咬合関係について咬頭勘合位、咬合接触、開口量、開閉運動などに異常がないか評価する。顎関節の動き、開閉口時の疼痛の有無、関節雑音の有無などを検査する。特に最大開口量及び、その時の開口時間を確認する。インプラント手術時においては、ある程度の開口量と開口時間が必要である。インプラント手術部位により必要な開口量は違う。前歯部より臼歯部の方が開口量が必要である。

咬合におけるインプラント治療のリスク

a.顎位
水平的顎位、垂直的顎位が安定して適正であるかを確認する。同じ  ところで噛んでいるかどうかである。歯の動揺が大きかったり、歯が痛かったりした場合に、無意識に痛くないところ、噛みやすいところで噛んでいる。インプラント本数が大きいほど顎位は変わる可能性があるので、仮歯等で様子を見ながら最終的な顎位を決めなければならない。
b.咬合のガイド形式
歯ぎしりの時の歯の動きは、歯がある人では、犬歯誘導(歯ぎしりの時に犬歯が中心となる動き)かグループファンクション(犬歯及びその後ろの小臼歯が一緒に当たる)が望ましいと考えられている。インプラント治療の場合は自分の歯がある場合は自分の歯、なければインプラント体に誘導させなければならないが、歯ぎしりの時に過剰な力がかからないように注意しながら形と位置を決めなければならない。また複数本インプラント体がある場合は出来たら連結する。
c.対合歯とのクリアランス
インプラントする場所の骨頂部(骨のあるところの一番上)と対合歯までの距離は一般的には7mm必要である。5mm以下の場合はインプラント体を手術で埋入することはできたとしても上部構造体を作ることはできない。また脱離、破損の原因にもなるので口腔内あるいは模型等で確認しておく。
d.咬合平面と咬合の再構築
歯の喪失期間が長くなると対合歯の挺出が起こる。咬合平面がおかしくなり、前方運動、側方運動時に過剰な力がかかるところができ顎関節の異常、補綴物の破損などが起こりやすくなる。先ずは口腔内全体を見ながら必要に応じて、インプラントする場所以外のところの補綴物の修正もする。
e.顎関節及び顎位
開口障害がないかを確認する。開口運動時に疼痛がないかどうか、運動がスムーズに行われているかどうか、開口量が正常かどうか。出来たら開口量は35mm必要である。
f.咀嚼筋、口腔周囲筋の異常
咬合の再構築(咬み合せのの変更)をした場合などでは、筋肉に違和感を覚えることがあるので注意が必要である。また歯ぎしり、食いしばりが強い人は補綴物の破損などが起こる可能性が高い。あまりに強い場合はボツリヌス療法等で筋肉の力を抑えることも必要である。

インプラント体埋入部顎骨の評価とリスク

骨量

骨量及び、骨質の診断にはCT画像を用いる。パノラマ写真では2次元の情報だけで正確な診断はできない。現在はCT撮影ができなければインプラント治療はしていない。
垂直的、水平的な判断をするが現在シュミレーションソフトの活用により、インプラント体を斜めに埋入することもするので立体的に考えることが大事である。

インプラント体は、標準として、直径4mm、長さが10mmを考える。骨量により、幅と長さを変更する。また、下顎管までの距離は最低2mm離すなどの安全域の確保も重要である。

抜歯後の骨吸収や歯周病等により、骨吸収が見られることが多いので、必要により、骨造成を行う前提で、埋入する部位とインプラント体の幅と長さを選択する。とくに前歯部の審美的領域については骨のラインを揃えて歯のラインを揃えるようにすることが大事である。

下顎では下顎管、上顎では上顎洞底、鼻腔底の位置を考慮する。

骨質

顎骨は、表面の硬い皮質骨と中の柔らかい海綿骨で出来ている。骨が硬すぎると骨をドリルで削る時に熱を発生し、やけどを生じることがある、水で冷やしながら削ることが大事である。また無理やり埋入することにより圧迫壊死する可能性もある。また、骨が柔か過ぎるとインプラント体を固定することができず、インプラント体が骨とくっつかない可能性が出てくる。

上顎洞までの距離と洞内の異常の有無

歯槽頂から上顎洞までの距離が近い時は、上顎洞内に骨造成するか、上顎洞を触らない、ショートインプラントで対応する。この場合はCT画像などで上顎洞内に異常がないかどうか確認する。必要に応じて耳鼻科に紹介して確認してもらう。

顔貌の評価とリスクファクター

スマイルライン

審美性が要求される前歯部の補綴にはスマイルラインが重要である。笑った時に歯のみが露出し、歯肉が見えないときは審美的な問題は発生が少ない。歯肉が露出する場合はリスクが高い。

インプラント周囲粘膜の厚さ

インプラント周囲粘膜が薄いと補綴後に退縮と萎縮がおこりやすい。インプラント周囲粘膜が厚いと維持しやすい。

2.局所状態の評価のまとめ

快適に長期にわたり、インプラント体が口腔内で機能するためには、インプラントを埋入する場所のみならず、口腔内全体を考慮することが大事である。ここの課題を考えながらインプラント治療をしていかなければならない。

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