インプラント手術のリスクと評価(1)~全身状態の評価と全身疾患~

インプラント手術におけるリスク低減のため、アイデンタルクリニックで行なっているルーティンのうち、本ページでは
1. 全身状態の評価と全身疾患について解説します。

1.全身状態の評価と全身疾患とのインプラント治療に対するリスク

患者の年齢

高齢者でのリスク

一般に高齢になると全身疾患を有することが多くなり、インプラント手術に対するリスクが高くなります。健康状態、知能、気力等は個人差が大きく、単純に年齢で分けることはできません。抜歯ができるような健康状態で、インプラント治療を希望する場合はよく説明した上でインプラント治療を行っています。

若年者でのリスク

若年者では、顎骨の成長が終了したかどうかが問題になります。顎骨の成長がまだ見込まれる場合は、埋入したインプラント体と天然歯との間にズレが生じ、補綴物をもう一度作り直さないといけなくなる可能性があります。ただし、矯正治療で使われるインプラント体は、矯正治療後に除去する時が多いので、この限りではありません。

喫煙のリスク

喫煙はインプラント手術の術後の治癒、およびインプラントの予後に対するリスクファクターであります。喫煙者の粘膜には慢性炎症が存在し、粘膜の治癒不全が起こることがあります。そのために、非喫煙者と比べて、インプラント治療の成功率が低いことが報告されています。また、GBR、サイナスリフト等の骨移植などの手術における感染の可能性が高いために成功率が低いことが報告されています。

主要な全身疾患とインプラント治療に対するリスク

(1)高血圧
高血圧そのものはインプラント治療の予後に対して影響はない。

血圧のコントロールが良好であれば、通常のインプラント治療で問題が生じる可能性は少ない。ただし、手術による患者さんへのストレスにより、血圧が急上昇し、止血困難や術後出血、あるいは、脳(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞)、心臓(狭心症、心筋梗塞、心不全)、腎(腎障害、腎不全)などに合併症をひきおこすことがある。

(2)心疾患
心筋梗塞の発作が起こった患者さんは6ヶ月以上経過後に良好にコントロールされていれば手術可能であるが、1ヶ月以内はハイリスクのために心臓の合併症の有無が重要である。狭心症の場合は、投薬により良好なコントロールが得られていれば手術可能である。術前に発作時のニトログリセリンなどの有無を確認する必要がある。心疾患そのものはインプラント治療の予後に対して影響はない。
(3)脳血管障害
脳血管障害には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などがある。この場合は運動麻痺の有無と抗血栓療法を受けているかが重要である。

運動麻痺がある場合は、麻痺の程度がどの程度かによって対応が違ってくる。口腔清掃ができるかどうかである。自分で口腔清掃ができない患者さんはインプラント体埋入手術ができたとしても原則的にインプラント治療はしない方が良い。

抗血栓療法を受けている場合は、抗凝固薬(ワーファリンなど)や抗血小板薬(アスピリンなど)が投与されている。抗凝固薬の治療濃度はPT-INRが用いられ、この数字が高いほど凝固能が低下する。すなわち、この数字が高いほど血は止まらない。局所止血が可能な濃度は抜歯に関するガイドラインではPT-INRは3以下と言われている。一般的な診療所ではPT-INRが2.5以下でインプラント手術を行うのがの望ましいと考えられています。抗血小板薬の場合は服用したまま手術を行うのが望ましい。患者さんの勝手で服用を中止しないように確認することが必要である。勝手に服用を中止した場合に障害が起こると重度になると言われている。

抗血栓療法そのものはインプラント治療の予後に対して影響はない。

(4)糖尿病
糖尿病の評価は以前は血糖値で評価していましたが、今はHbA1cで評価します。インプラント治療にかかわらず外科処置はHbA1cが6.9以下で行われます。手術中、手術後の高血糖、低血糖に注意が必要である。

治癒不全を起こしやすく感染しやすい。出血しやすい。

現在糖尿病がコントロールされていても未来への保証はないので、糖尿病はインプラント手術、及び、予後に対して影響はある。

(5)骨粗鬆症
骨密度の低下、骨質劣化がインプラント体の初期固定の失敗のリスクを増すが、現時点では、インプラント治療の成功率の低下指せるかどうかは明確な結論は出ていない。

骨吸収抑制剤(主にビスフォスフォネート系薬剤)の投与により、骨吸収抑制薬関連骨壊死(ARONJ)を引き起こすリスクがある。

(6)消化器疾患
術前術後の投薬に注意が必要であるが、急性期でなければインプラント手術に直接の影響はない。
(7)ウイルス性肝炎
重症肝障害症例では、出血傾向があるので注意が必要である。免疫機能低下により、創傷治癒不全を起こす事がある。院内感染のリスクがある。
(8)腎機能障害
合併症(高血圧、浮腫、うっ血性心不全など)を伴うことが多い。かかりつけ

主治医との情報共有が大事。慢性腎不全で透析を受けている患者さんはインプラント治療は禁忌である。

(9)金属アレルギー
インプラント体に使われているチタンも金属アレルギーが現れる可能性がある。疑われる場合はバッチテストを行って確認する。仙台赤十字病院で行っている。
(10)その他
気管支喘息、血液疾患、自己免疫疾患、アレルギー疾患、精神疾患等がある。

インプラント治療のリスクへの対応と注意点

十分な問診を行う。必要な場合は主治医の連絡をして意見を聞きながら治療をする。また、患者さん自身が気づいていない疾患があるかもしれないので、手術1ヶ月以内に血液検査を実施して、インプラント手術を行ってもよい健康状態かを確認する。

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